ドクターインタビュー
辻谷 俊一 先生
副作用がほとんどない、患者さんにやさしい「樹状細胞ワクチン療法」が、がん治療の新たな扉を開く九州大学大学院がん先端医療応用学 准教授 福岡アイマックスクリニック辻谷 俊一 先生

 免疫細胞の一つである樹状細胞のはたらきをがん治療に活かした「樹状細胞ワクチン療法」。患者さん自身の細胞を使って治療を行うため副作用がほとんどなく、患者さんの負担が少ない治療法として今注目されています。この新しいがん治療の一つである樹状細胞ワクチン療法について、臨床の第一線で活躍されている九州大学大学院准教授の辻谷俊一先生に、実際の治療の内容や効果に関するお話を伺いました。

樹状細胞の性質を活かした新しい免疫療法

 まず、「樹状細胞ワクチン療法」のしくみについて簡単に説明してみましょう。これまでの免疫のしくみが研究されていく中で、がんと闘う主役は「リンパ球」だということがわかりました。しかし大きな問題点は、がんを退治するはずのリンパ球が、必ずしもがんのところに集まってくれないことでした。

 そこでカギを握ることになったのが、「樹状細胞」です。樹状細胞は、がんの「目印」である「がん抗原」をリンパ球に教え込むはたらきをもっている細胞で、目印を教えられたリンパ球は、がん細胞に対して狙いを定めた攻撃ができるようになるわけです。

 具体的には、血液から採取した樹状細胞の元となる細胞を培養し、がん抗原を用いた樹状細胞ワクチンを作ってそれを患者さんの体内に戻します。体内に入った樹状細胞がリンパ球にがん抗原を教え、そのリンパ球ががん抗原(がんの「目印」)をもとにがんを狙っていくのです。

 この治療法は、2010年に米国のFDA(米国食品医薬品局)によって前立腺がんへの適応が初めて承認されました。免疫療法として、はじめて臨床試験で有用性が証明されたわけです。これは日本においても、免疫細胞療法が標準治療に向けて次の扉を開く、大きな出来事になりました。この細胞を発見したスタインマン博士は、2011年のノーベル医学・生理学賞を受賞しながら、発表の3日前に亡くなっていました。膵がんにかかり、樹状細胞を用いた治療も行いながら、4年半生き抜かれたそうです。

「WT1」などの優秀な人工抗原を使用した樹状細胞ワクチン療法

 樹状細胞ワクチン療法では、リンパ球を正確にがんに攻撃させるために、がんの目印となる「がん抗原」をリンパ球に教え込むことがポイントになります。そして、どのような抗原を用いるかによって治療の方法が分かれます。手術の際に患者さんご自身から取り出したがん組織を使ってがん抗原を得る方法や、人工的に作られたがん抗原を使う方法などがあります。
 いま私たちが患者さんに対して実際に多く行っているのが、「人工抗原」をつかった治療法です。

 人工抗原の中でも「WT1」や「MUC1」は、非常に多くのがん細胞が表面に持っている抗原で、これを用いることでほとんどすべてのがん種で樹状細胞ワクチン療法を行うことができます。また、2009年の学会誌「Clinical Cancer Research」では、75種類の人工抗原のなかで、がんワクチンに用いる優先度がもっとも高い抗原として第1位に「WT1」、第2位に「MUC1」を選んでいます。つまり、数あるがん抗原のなかでも非常に強い免疫反応を引き起こし、治療における有用性が高いと考えられています。 これらの人工抗原を使った樹状細胞ワクチン療法では、自身の体からがん組織を取り出す必要がありませんから、患者さんの負担も非常に小さくて済みます。また手術の実施に左右されることなく、自由度の高い治療が行えることにもなります。

 また、腫瘍の中に直接樹状細胞を注射する局所樹状細胞ワクチン療法もあります。体外でつくった樹状細胞をがん組織に直接注入することで、がん抗原を樹状細胞がリンパ球に教え込む方法です。これは、皮膚がんのように体の表面にあるがんの場合や、胃がんや食道がんのように内視鏡を使って樹状細胞を注入できるという限られた部位が対象になります。

 一方、手術で患者さん自身のがん組織を採取し、それをがんの目印として使用する樹状細胞ワクチン療法のことを自己がん組織樹状細胞ワクチン療法と言います。こちらは手術などによってがん組織を採取できた患者さんのみが対象になりますが、治療時に自己がん組織を確保できないことが少なくありません。

 さまざまな樹状細胞ワクチン療法がある中でも、WT1などの人工抗原は、強い免疫を起こすことで定評のあるがん抗原です。一方、自分の腫瘍から取り出す自己がん抗原を使った方法では、患者さん個々でのオーダーメイドの治療が可能になりますが、必ずしも強い免疫を起こすとは限りません。いわば一長一短といえますが、腫瘍が小さくなる確率については、私たちの臨床データで見る限りでは、人工抗原でも自己がん組織をつかった場合でもともに約4割と変わることはないようです。

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